暮らしの風景
Vol.7
暮らしの変化とともにある住まいのカタチ。
住宅街の街角に、多様な植栽に包まれるようにして佇むK様邸。元々は祖父母の家だった場所に新築した木の家は、9年を経てお庭と建物がすっかり馴染み、公園のような、又は雑木林の中にあるような佇まいに思わず足を止める街の方もいらっしゃるほどです。新緑眩しい初夏の頃、これまでとこれからのK様ご家族の暮らしぶりを拝見しに伺いました。
K様邸
建築年 2015年
取材年 2024年(取材時築9年経過)
所在地 愛知県安城市安城町
敷地面積 122.39坪(405.42㎡)
延床面積 34.89坪(115.57㎡)
住まい構成 ご夫婦+お子様2人(取材時)
薪ストーブのある木の家に住みたい
K様がナルセノイエに初めてお越しになったのは、薪ストーブイベントの時でした。スタッフの平岩が「ご主人が興味津々でいらっしゃるのをニコニコと見守る奥様が印象的でした」と振り返る当時のことをK様に伺うと、実は薪ストーブに関心があったのは奥様だったと言います。
自動車メーカーにお勤めのご主人にとって、鉄骨造のマンションや、メーカーの住宅が"安心できる住宅像”でしたが、奥様は薪ストーブのある木の家に住みたいと強く願っていました。
「私は寒がりな上に、前に住んでいたアパートは室内の壁が結露するほどに寒かったので、あるとき薪ストーブの暖かさを体験して『絶対にこれが欲しい』と思いました。それに木の家が好きで、建ててもらうなら、家族の成長も一緒に見守ってくれる地域工務店さんが希望でしたね」
そう話す奥様は、さりげなく希望の家の資料を見せたり、薪ストーブの良さを語ったりして、ご主人と少しずつ意見をすり合わせて、ナルセノイエの薪ストーブイベントにご主人を招くことに成功。初めて薪ストーブを体験したご主人は「他の暖房器具にはない暖かさに驚きました。それに、火遊びをするような楽しさもよくて、一気にファンになってしまいました」と笑います。これが、冒頭にお話したシーンの裏話。
すっかり薪ストーブのある木の家のファンになったご主人が楽しく薪割りができるような無理のないスケジュールや、薪の量の計画など、奥様のサポートは今も続いています。それでも、日常的ではない薪割りは気合いのいる作業なので、
ご主人「薪割り機があればいいなぁって思います。」
平岩「実は今、会社で薪割り機を譲り受けまして、修理が必要なのですが、それが終われば住まい手さんに使ってもらえるようになります!」
一同(拍手!)
ご主人「なんだかんだで、毎年ナルセさんとは交流があって楽しいし安心します」
という会話が取材中に生まれ・・・。
奥様が憧れた、地域工務店とつくる"薪ストーブの木の家暮らし”が、見事に実現していました。
キッチン、ワークスペース、リビング、薪ストーブが揃う家族団欒の中心。普段はここで、各々の時間を楽しむことが多いという。
薪ストーブの薪割り担当はご主人。普段のメンテナンスや火の管理をするのは奥様で、「毎年秋になると、早く火を焚べたくてうずうずします」と笑う。
奥様は、子供の頃から”自分の家を建てる”ことに憧れがあったと言います。
「間取りを考えることが大好きだったんです。こんな家に住みたいな、こんな暮らしをしたいな、とことあるごとに考える子供でした(笑)。実際に家づくりを考え始めて、何社かプランを考えていただいたんですが、自分の中のイメージや想いを伝えるのは想像以上に難しくて、しっくりくるプランがなかったのですが、ナルセさんが描いてくださったプランはすごくしっくりきて、『住みたい』と思えたのを覚えています。そこからは、細かな要望や将来の暮らし像を話しながら擦り合わせて一緒に創り上げていく作業がとても楽しかったです」
「住んでからは、子供達が楽しく遊ぶにはどうしたらいいか、とか、もっと工夫する余地はないか、など考えるのが楽しい。暮らしを考えることが趣味なのだと思います」と笑う奥様の"趣味”は今も続いています。
奥様のお気に入りの風景は、キッチンからみる窓越しの緑。
お庭をしっかりつくりたい、というのも憧れのひとつで、多彩な木々や草花に包まれたK様のお庭は、ご家族の暮らしだけでなく、街の人々にも彩りをもたらしており、「お世話は大変だけど癒されますね」とにっこり。
街角にある緑豊かなK様邸は、街ゆく人に声をかけられることも多いという。ナルセノイエの他の住まい手さんにも、この街角のファンがいらっしゃいます。
住宅街にありながら、雑木林の中の別荘地のような雰囲気。
板塀などで仕切らず、築山を作り、様々な高さの植栽を植えることで町との距離感を保っている。
石畳や自然石の階段、芝生など素材を変えながらアプローチも複数備えられ、変化が楽しい町との緩衝材に。
季節ごとの花が咲き、葉が色づき、水や石の音が楽しい。
室内の素材。サイン、じゅらくと漆喰を混ぜた塗り壁、質感のある和紙の壁紙、フラットに続く畳リビングなど、隅々までこだわりが詰まっている。
奥様が参考にされたという、中村好文氏の著書「普通の住宅、普通の別荘」。その中にある和室の写真から、タタミリビングをイメージしたそう。
家族の存在や気配を感じられる家
「引き渡し前なのに、我慢しきれずタタミリビングにゴロリとしたくらいこの家が気に入っています」と笑うご主人。家族団欒の場所は、薪ストーブのあるお気に入りのタタミリビングで、それを中心としてキッチン、水廻り、ユーティリティスペース、2Fへの階段がつながる間取り。子供達と常にコミュニケーションを取りやすいリビング階段やリビング上部の吹抜け、行き止まりのない回遊動線がこだわりポイントです。
板の間の一部を畳敷きにしたリビング。テレビは壁掛けにして、階段下の収納に電子機器を収納。その壁の上部は開けて開放感を高め、その奥のフリースペースは半個室に。階段横の置き収納は主に子供達のためのもの。その奥には洗面脱衣、洗濯物干しスペース兼ウォークインクローゼット、お風呂場がまとまっている。
テレビの奥の様子。ここは子供達の遊び場として、また季節の飾り付けをする場所として活躍している。リビングから見た壁裏に玩具や遊具を仕舞うので、LDKから見た時にもすっきり。
家族の気配をつなぐ、開放的な吹き抜け。手すり壁や床の一部をスリットにすることで、上下階の温度差を解消し、空気と太陽の明るさが隅々まで届く。
南側の窓は障子を備えており、柔らかな光を室内に届けてくれる。冬の日中に開ければ太陽の熱がダイレクトに室内に届き、夏は閉めておけば明るさを失わずに暑さをカットできます。
憧れだけでなく、必要となる役割を持たせる
「ウッドデッキは憧れていたけれど、普段の生活での必要性を持たせないとほとんど使わなくなってしまう。それは避けたかったんです」と奥様。
K様邸のウッドデッキは、駐車スペースとリビングの間にあります。外から内へ入る動線上にあるため、普段から通路や溜まり場として活躍。玄関はあるのですが、お隣に住むご親戚や、家庭教師、運送業者さんなど、顔馴染みの方はウッドデッキを玄関がわりに使っているのだとか。
ウッドデッキの上にはパーゴラを備えて、日射を遮ってウッドデッキの表面温度の上昇を抑える工夫も。夏でもウッドデッキでプールを楽しんだり、素足で遊べるリビングの延長線としても大活躍です。
駐車スペースとウッドデッキの関係性。右側の切妻部分は屋根のあるサービスヤードと玄関です。
板の間とフラットに繋がるウッドデッキは、大開口の窓を開け放てばリビングの延長上にある空間として繋がる。靴でも裸足でも気にせずおおらかに使用しています。ハンモックや梯子など、子供達が日常的に遊べるように、という奥様のアイディアが随所に込められた楽しいウッドデッキです。
左隣はご親戚の住まい。取材中もウッドデッキ越しに声をおかけになり、子供達とコミュニケーションをとっておられました。K様邸のウッドデッキは、現代版の縁側といったところでしょうか。
暮らしの変化に寄り添う住まい
家を新築した頃は子供部屋はありませんでしたが、今は前談でお伝えした通りお兄ちゃんのお部屋ができ、これからは妹さんのお部屋もできていくでしょう。
「子供たちは大人になったら巣立つものだと思っているので、子供部屋は簡易的にします。広さも最低限、収納は少なくして、便利なものはつけず、『理想の家は自分たちで作るぞ!』と思ってもらえれば嬉しいです」と奥様。
また、K様邸はそれぞれの空間に最低限必要な分の収納しかありません。「収納を大きく作ってしまうとそれに甘えてしまうので、溢れたら定期的に断捨離するようにしています。特に子供が小学校に上がる、中学校に上がる、などの生活の転換期ごとに整理していきたいです。」
そうして子供達が大人になり家を出て、夫婦二人暮らしになった頃には、1Fで暮らしが完結できるようになっています。今は子供達が遊び場としているフリースペースはご夫婦の寝室に。駐車スペースからもウッドデッキを通じてスムーズに出入りできるので、足腰が不自由になっても安心です。
和室にしてしまうと使わなくなりそうなので、板張りの一部を畳敷きにしたリビング。2Fと1Fを繋ぐ通路上にあるので必然的に家族が通り、そして溜まり場になります。
小さい頃から工作が好きなお兄ちゃんの趣味は、鉄道模型「Nゲージ」をつくること。お部屋でジオラマを作ったり、模型を組み立て走らせることがとても楽しいのだそう。ワンルームを本棚とパーティションで簡易的に仕切り、その隣(写真左下)は奥様とお子様お二人が寝るお部屋。やがてここは妹さんのお部屋になる予定。そうした時に、今はご主人のワークスペース兼寝室(写真右下)をご夫婦の寝室にする、という近年の将来設計。
駐車スペースとウッドデッキは、盛り土とスロープによって緩やかな勾配で繋がっている。
駐車スペースからウッドデッキを通って繋がるテレビ奥のフリースペースは、最終的にご夫婦の寝室になる予定。
空間だけでなく、時間軸での使い方もシームレスに繋がっているK様邸。居心地の良い優しい空間を支えている考え抜かれたアイディアに、感嘆の連続でした。
K様、暮らしを見せていただき、ありがとうございました。