アクション100case.009
天然酵母パンのお店
matupan(まちゅぱん)
アクション100 case.009は、岡崎市にある天然酵母パンのお店「matupan(まちゅぱん)」さんをご紹介します。
パン好きが高じてパン屋さんを開くまでになりました
田園風景の広がる通り沿いに「matupan(まちゅぱん)」さんがオープンしたのは2016年4月30日のこと。今年で9年目を迎えました。
店主の藤井美加子さん(以下、藤井さん)がパン作りの世界に入ったのは、25歳の頃。当時会社員だった藤井さんは趣味でパン教室に通っていたのですが、趣味だけでは収まらず、パン屋に転職。最初はスーパーに併設されているパン屋に勤め、次に路面店のパン屋に移り、最後は「緑と風のダーシェンカ」豊田店の立ち上げから責任者として携わり、12年ほど勤務されたのち、matupanとして独立。
現在は、木金土の週3日間はパンを製造・販売し、日月火水の週4日間はパン教室を開いて生徒さんにパン作りを教えています。
穏やかな田園地帯に馴染む佇まい。
コンパクトな店内にたっぷりのパン。右手奥は厨房。
パンの特徴や素材のことが詳しく書かれたプライスカードは、見ていて楽しい。
パンは自分でとり、トレーに乗せてレジへ持っていくスタイル。kumiジャムさんの季節のジャムや、オーガニックジンジャーエールやフルーツジュース、テイクアウトのコーヒーの販売もしている。
小麦と、酵母と、素材のさじかげん
matupanのパンは、全て自家製の天然酵母で発酵しています。酵母は主に、苺と温州みかんとぶどう。苺は近所の苺農家さんから仕入れ、温州みかんはご親戚のみかん農家さんから、ぶどうも近隣の方から仕入れています。
酵母を2種類使った方が安定するそうで、苺農家さんの努力で通年供給が可能ないちご酵母を基本に、みかんやぶどうの酵母を季節によって合わせます。果実の収穫時期や、収穫後の経過時間によっても酵母の味や状態が変わるため、細かな調整が必要になるのも、天然酵母の奥深いところ。
取材時はいちご酵母とみかん酵母の季節で、5日間かけて発酵させている。間近で見ると、酵母が元気に動いているのがわかる。
また小麦は国産小麦で、北海道の小麦数種類と、愛知や三重の小麦も使用しています。
「北海道産の粉はフランス産のものに近いですが、愛知や三重の粉はお米の香りに近い気がします。愛知と三重の粉でも違いがあって、三重の粉は水をよく吸うんです。だからモチモチした食感になります。それに味が濃いですね。愛知の粉は歯切れがよくて、すっきりした美味しさがある。どのパンにどの粉を使おうか、酵母の調合はどうしようか、と考えるのも楽しいんです。」
と笑顔で語る藤井さんは、心の底からパンを愛するパンマニア。
「パンの小麦の味や香りが本当に好きなので、いちばん好きなパンはハード系のパンと、食パンですね。」とおっしゃる通り、小麦へのこだわりも強い。
笑顔で話してくださる、店主の藤井美加子さん。
ラインナップは、"藤井さんが食べたいパン”。少ない時でも30種類以上はあるというパン達は、シンプルなものや旬を味わうもの、お食事パンやお惣菜パン、菓子パンなど多種多様で、それぞれの特徴が書かれたプライスカードを読んでいるだけでも楽しい。
使われるお野菜や具材は、ご実家の畑で採れたものや、ご近所のお知り合いの方が育てているものがほとんど。足りない分は、藤井さん自ら納得したものを使っています。
「使うものも、私が食べたいと思うものにしたいから」という藤井さんのこだわり。
卵は、岡崎のランニングエッグ、ベーコンやハムは浜松のとんきいから仕入れている。棚にはネームカードと共にバラエティ豊かなパンが並び、「パンの種類を減らすほうが難しい。食べたいものを作っているから、どんどん種類が増えていってしまいます。」と藤井さんは笑います。
試作のベーグルをいただきました。生地に人参を練り込んであり、人参の甘さとクリームチーズのまろやかさとチーズの塩味が美味しい。人気のにんじんパン(写真左)と基本は同じ生地ですが、チーズに合わせて微妙に配合を変えているそう。ちなみにこの人参は、ご実家の家庭菜園のもの。
季節ごとのパンは頻繁に変わるので、matupanさんのインスタグラムで最新情報をご確認ください。
9割以上がリピーターのパン教室
実は藤井さんは小麦アレルギーをお持ちで、パンの製造をするうちに酷くなってしまい、粉の吸引量を減らすためにも、現在はパンの製造を週3日にし、週4日はパン教室を開いています。
パン教室は、生徒さんの9割以上がリピーターさん。以前の職場である”緑と風のダーシェンカ”さんでもパン教室を開かれていたため、その頃からのお客様も含め、遠方からお越しになる方も多いのだそう。
(※現在、ダーシェンカ豊田店ではパン教室を行っておりません)
レジ奥にある厨房で、普段使う道具を使って行われるパン教室は1回7人~8人の少人数制。
天然酵母を使ったパン(生徒さんは成形のみ)と、イースト菌を使ったパン(当日発酵ができるので生徒さんは生地から作る)の2種類を基本としており、毎月メニューが変わります。それ以外にも、お料理の先生とのコラボ教室や、夏休み親子パン教室などのイベントもあり、パン作りに親しむことができます。
生徒さんの属性も多種多様で、2〜3年通っている19歳の青年もいらっしゃるそう。
「パン作りに慣れている方も多いので、マニアックな話もします。先生と生徒、というより、みんなで楽しくパン作りをしている雰囲気ですね。特にクラス分けはしていないので、初心者の方も上級者の方も一緒に作ります。物怖じせず毎月通っていると、周りのレベルに合わせてぐんぐん上達しますよ。楽しみながらパンに触れ合っている様子を見ていると嬉しいです。」と藤井さん。
1月のパン教室の様子。この日のメニューは、ガレットデロワとハニーマスタードブレッドの二種。切り込みの入れ方や、パンの成形のコツもあわせて学びます。生徒さんが作られたものは持ち帰り、藤井さんが作ったものを皆で試食。和気あいあいと楽しいお教室でした。(写真:ナルセコーポレーション提供)
なお、パン教室は予約制です。空き状況などは、お電話や店頭にてお問い合わせください。
”まちゅぱん”の名前を背負ってこれからも。
店名「matupan(まちゅぱん)」の名前は、藤井さんのご先祖様から名付けたと言います。
「父と祖父と曽祖父それぞれの名前に、偶然 ”松” が入っているんですよ。このお店の場所は先祖代々の土地なので、お店の名前にはご先祖様の名前をつけたいと思っていて、繋がりを感じる”松”を使った”まつぱん”を、可愛らしく”まちゅぱん”としました。」
その想いを知って、お店を作った大工さんは、通りに面した外壁を松ぼっくりをイメージしたものにしてくれたそう。看板や店内装飾にも松ぼっくりがあちらこちらに見られます。
matupanでは、藤井さんのお母様やお姉様、叔母様もお店を手伝っておられて、酵母や具材、餡子などはお母様の手作り。素材や食材は、ご実家やご近所の農家さんをはじめとする”顔馴染み”の方々からの提供が主となっています。
「使うものは、新鮮で安心できるものにしたいのですが、それ以外にも、人との繋がりを大切にしたいという想いもあります。新しい業者さんを探す時も、人柄重視です!」
そうお話しされる藤井さんのお店「matupan」には、ほっこり温かな空気が流れていました。これからもこの地で、人々の笑顔を繋いでいかれるのだと思います。
皆様も、ぜひお気軽に足をお運びください。
天然酵母パンのお店
matupan(まちゅぱん)
〒444-0945 愛知県岡崎市東本郷町古塚15
TEL 0564-89-0662
web https://profile.ameba.jp/ameba/matupan430/
IG https://www.instagram.com/matupan2016/
パンの販売 木金土 9:00~18:00
パン教室 日月火水 9:30~14:00(要予約)
※不定休あり
※日月火水は電話に出られないため、留守電にメッセージをお願いします。
《編集後記》
ティータイムにいただきました!
いちじくくるみパンにフランス産のリーガルクリームチーズとアカシアのはちみつをサンドした「リーガルクリームチーズとはちみつ」(左・パンマルシェ8のパンコンテストで1位を受賞!)と、高香園さんの抹茶とオーガニックくるみと自家製あんを折り込んだ看板商品「まちゅぱん」。
いちじくくるみパンは、ハード系ではなく柔らかな口当たり。香ばしくてコクのある胡桃と、優しい甘さのドライいちじくがクリームチーズとはちみつにピッタリマッチしていました。まちゅぱんは、甘さ控えめのほっこりした餡(お母様の手作り!)に、ほろ苦く香り高い抹茶にあって、そのままでも美味しいですが、トーストするとさらに香りが立って個人的にお勧めです。
そのほか、様々なパンをいただいたのですが、どれも本当に小麦の味が濃く、日常的に食べたくなる素朴な旨みが印象的でした。藤井さんのおっしゃるように、パンによって小麦の印象や味わいが変わり面白く、また違う季節の商品も食べたくなりました。
(当方は、大のパン好きです)